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『シン・ウルトラマン』を振り返る【感想と考察編】

6月10日からポストカードの配布が始まるなど、まだまだ観客動員数が伸びそうな映画『シン・ウルトラマン』。

 

 

私も先日見たのですがオリジナルのウルトラマンをベースに、大人の観賞に耐えられる部分を吸い上げてテレビシリーズを再構成し、原作を意識した演出を取り込んだうえで、マイナーなネタまで拾うというてんこ盛りな内容で、最後に流れるM八七で心が洗われる映画です。

 

個人的には初期のウルトラマンにあった、人類よりも上位の存在の宇宙人(外星人)が、人類や地球についてあれこれ語り合う路線が再現されていたのが好印象でした。

 

そんなシン・ウルトラマンについて振り返っていきますが、映画を見たことが前提の内容となっており、ネタバレがあるので未見の方はご注意ください。

 

感想と考察

序盤からシン・ゴジラを巻き込んだウルトラQのパロディが始まるのですが、ウルトラマンウルトラQが好きな方はここでもうやられてしまうでしょう。

 

シン・ゴジラのタイトルが割れ、シン・ウルトラマンのタイトルが出るのは元のウルトラマンにあったウルトラQのタイトルが割れてウルトラマンのタイトルが出る演出の再現です。

 

ウルトラQからウルトラマンへの繋がりを意識した導入後、怪獣や科特隊に変わる禍威獣や禍特対の存在を描きつつ、後にウルトラマンと呼ばれる銀色の巨人が現れるという始まり。

 

ストーリーは禍威獣に加え、ウルトラマンを含めた外星人に振り回される禍特対を描きつつも、禍威獣との戦闘シーンも元のウルトラマンを意識したもので、元ネタを知っていれば知っているほど楽しめるものになっていました。

 

特にザラブが登場するエピソードは原作再現感が特に強く、ウルトラマンの人間時の姿である神永の手に重ねるように手を当てるのは元のウルトラマンにあった演出で、その後拉致されるのも同じです。

 

救出されたウルトラマンがザラブが変装した偽ウルトラマンと戦う場面は元のウルトラマンを特に意識したもので、偽ウルトラマンにチョップしたウルトラマンが痛がる場面をほぼそのまま再現していますし、その後の戦闘も最後の空中戦を除けば同じ流れでした。

 

格下なザラブ

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透明になれる、地球の電子機器に鑑賞できる、催眠光線で神永すら眠らせることができると多彩な能力を持ち、神永がウルトラマンに変身できることを世界中にばらしたザラブですが、ウルトラマンや後に出るメフィラスとゾーフィに比べると格下な存在として描写されています。

 

ウルトラマンを拘束後、ベータ―ボックスの点火装置を持ってないことを怪しみますが、神永がウルトラマンになるため使用するのはベータ―カプセルであり、ベータ―カプセルはベータ―ボックスの点火装置ではありません。

 

ザラブはベータ―ボックスを人間の手でも持てるほど小型にできることを知らないことになります。なおベータ―ボックスとその点火装置は後にメフィラスが使うかたちで登場しました。

 

加えてザラブは人類を現住知的生物やホモ・サピエンスと呼びますが、メフィラスやゾーフィは現生人類と呼称し、禍威獣が人類より以前に存在した古代の生物兵器であることも明らかになります。

 

他の外星人とは違って古代の地球については何も知らず、日本政府の対してウルトラマンがスペシウム133を利用していることをばらしますが、それ以外については言えないと分からないとしか発言していません。

 

後に出てくるメフィラスと比べ、政府側の質問にも取り繕えていないのですが、これはザラブが人間を見下しているから雑な対応をしているとも考えられます。

 

ザラブはマーカーを確認した天体に赴き、そこにいる知的生命体を滅ぼすことが仕事であり喜びと語りますが、このことがメフィラスに利用されました。

 

またザラブとの戦いが始まる前に神永は浅見に外星人か人間なのか聞かれますが、これは元のウルトラマンではメフィラス星人に地球人と宇宙人のどちらなのか聞かれ、「両方さ」と返したエピソードが元ネタ。

 

余談ですがザラブ戦では元のウルトラマンにはなかった高層ビルが出てきます。これは『帰ってきたウルトラマン ULTRA original BGM collection 5』が元ネタではないかという指摘があり、デザイナー本人の言及もありました

 

メフィラス以降

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そんな原作再現路線はメフィラスの登場から大きく変わっていきます。

 

メフィラスはベータ―ボックスで自分と人類の間には圧倒的な科学力の差があることを見せつけ、自分との取引を日本政府に持ち掛け、時間をかけて人類を兵器として利用するため支配しようとしました。

 

元のウルトラマンでは子供に取引を持ち掛けましたが、本作ではその相手が政府になり、禍威獣もザラブもメフィラスが仕込んでいたことが明らかになります。

 

禍威獣については人類の自然破壊が原因だとメフィラスは言い切りますが、これがどこまで本当かははっきりしませんが、少なくとも体の構造に類似性のあるパゴス~ネロンガの3体が続いて現れたことにには作為的なものを感じました。

 

ちなみにウルトラマンとメフィラスが飲み食いしていたお店ですが、映画の上映に合わせて撮影に協力したことを公表しています。

 

交渉が決裂した結果、ウルトラマンは力ずくでメフィラスを妨害し、メフィラス戦が始まります。

 

メフィラスは元のウルトラマンで登場した姿に比べ細身で、ウルトラマンと同等の存在であることが強調されたデザイン。

 

光線技の撃ちあいや一本背負いをお互いに繰り出すなど、元のウルトラマンでのメフィラス戦と同じ場面があり、ウルトラマンに対してフラストレーションが溜まっていたのか、優勢になると神永と融合していることや非コンパクト化による消耗を指摘するなど好戦的なものに変わり、その後の去り際も含めて印象に残るものでした。

 

今まではウルトラQは元のウルトラマンのBGMやアレンジしたものばかり流れていましたが、メフィラス戦では本作独自のBGMが流れ、原作重視だったそれまでから変化していることが音楽面でも演出されています。

 

メフィラス戦はメフィラス戦はゾーフィの存在に気付いたメフィラスが地球から去るかたちで終わり、メフィラスは「さらばウルトラマン」と言い残して消えていきました。

 

この言葉は元のウルトラマンで最終話のタイトルだった『さらばウルトラマン』が元ネタです。

 

他にもザラブがウルトラマンに化けていたときの「例えウルトラマンでも~」も元のウルトラマンにある台詞で、終盤の「ウルトラマンは神ではない」はウルトラマンメビウスで元のウルトラマンが同じ発言をしていました。

 

またメフィラスはウルトラマンとの戦闘中にネゲントロピーという単語を使いましたが、これはエントロピーに関連した実在する単語です。

 

メフィラスは言動も魅力的でしたがマルチバースや他の外星人の存在に触れ、ウルトラマンと同じようにベーターシステムで本来の姿を別次元から持ってくることを体現するなど、世界観を広げ魅力的なものにしていました。

 

ゾーフィ

金色の体にダークネイビーの模様の入った姿で現れたゾーフィ。

 

ゼットンを兵器として持ち出し、人類を地球や太陽系ごと消滅させようとするという元のウルトラマンとはかけ離れた行動をとりますが、これは『宇宙人ゾーフィ』が元ネタです。

 

元のウルトラマンゼットンゼットン星人によって地球に現れましたが、一部の児童向け雑誌に伝達が上手くいかず、『宇宙人ゾーフィ』というゼットンを連れてきた黒幕として紹介されていました。

 

金色とダークネイビーのカラーリングは、成田亨氏が描いた黒と金色の『ウルトラマン神変』や、『ネクスト』と名付けられた絵が元と考えられ、ネクストは下のリンク先で小さいながらも見ることができます。

www.aomori-museum.jp

 

「そんなに人間が好きになったのか」も、元のウルトラマンの最終回のゾフィーの台詞である「そんなに地球人が好きになったのか」が元ネタでしょう。

 

またゾーフィの声を山寺宏一さんが担当していますが、これは庵野秀明監督が関わっていた『ザ・ウルトラマン』のショートアニメでもゾフィーを演じていたので、シン・ウルトラマンでも続けて演じたのだと思われます。

 


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このショートアニメでは『回転して赤い円盤になるウルトラマン』という、シン・ウルトラマンにもあった描写が出ます。

 

ザ・ウルトラマン』ですが元は漫画であり、ウルトラマンたちのプロフィールも載っていました。

 

それによるとウルトラマンの趣味は読書とあるため、シン・ウルトラマンで神永が本を大量に読む描写があるのはここからきているのではないでしょうか。

 

またゾフィーについては『ゾフィーだけはどんな空間にもとびこめるんだ』と紹介されており、終盤異次元を漂うウルトラマンを見つけたエピソードの元ネタと考えられます。

 

このように様々な要素の掛け合わせなゾーフィですが、その本心などはほとんど語られれません。

 

ウルトラマンが人間を好きであることを指摘し、神永と融合した後のウルトラマンと同じような模様が体にあるので、もしかしたらゾーフィもウルトラマンのように別の生物と融合していた過去があるのかも……。

 

余談ですが同じようなタイトルに『ザ☆ウルトラマン』がありますが、タイトルが似ているだけの別作品のため、『ザ・ウルトラマン』と関連はありません。

 

続編への伏線?

本作では続編への伏線と思われる描写が複数あります。

 

ウルトラが公安の重要案件を示す符丁(合言葉や隠語の意味)であることが語られますが、このウルトラという単語はウルトラセブンでもウルトラ警備隊という名称で登場し、劇中でのウルトラセブンという呼称も『ウルトラ警備隊7番目の隊員』が由来です。

 

シン・ウルトラマンでは終盤、国連直属の新組織について言及があるので、これがシン・ウルトラマンの世界版ウルトラ警備隊になるかもしれません。

 

メフィラスやゾーフィが人類を現生人類と捉えていることや、禍威獣が古代の生物兵器であることから、地球にはかつて別の人類が存在していたことが示唆されていますが、ウルトラセブンでは人類が地球に住む前から地球にいたというノンマルトが登場します。

 

ウルトラマンとゾーフィの最後の会話で、人類はベータ―ボックスを使用することで兵器に転用できることが分かり、それがマルチバース中に知られたことが明らかになりました。

 

ウルトラセブンは宇宙人と戦うエピソードが大半だったので、シン・ウルトラマンにも続編があれば同じように外星人と戦うことになるかもしれません。

 

また禍特対の滝は、城北大学の物理学者であることが序盤に文字で紹介されていますが、この城北大学はウルトラセブンに脚本段階で登場していました(放送時は京南大学に変更)。

 

加えて仮面ライダーでは主人公の本郷猛が通う大学として1話で登場するものの、2話以降は城南大学に名前が変わっています。

 

もしかしたら庵野秀明監督繋がりでシン・仮面ライダーとも接点が出てくるかもしれません。

気になったところ

引っ掛かった点がいくつかあり、まず浅見との関係ですが、人類のことを浅見が神永に扮するウルトラマンに教えるといった立ち位置に見え、ザラブのときに少しだけ出てきた公安時代の同僚である加賀美の方がバディという印象を受けました。

 

ウルトラマンのデザイン

本作のウルトラマンはウルトラマンをデザインした成田亨氏が描いた『真実と正義と美の化身』がベースになっています。

 

氏が望まなかった目の部分の覗き穴や背中のファスナーを外し、カラータイマーのないデザインになっているのですが、耳にある電飾のスイッチはそのままついていました。

 

この動画のサムネに耳のスイッチが映っています。


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どんなやり取りがあったかは分からないので言及すべきではないかもしれませんが、このスイッチがそのまま残っていることに「そこはいいんだ」という言葉が浮かびました。

 

M八七

このように気になる点はあるものの、M八七が流れ終わると満足感を得た状態で劇場を後にしました。

 

ウルトラマンや人類を指した直接的な歌詞はないものの、様々な見方ができる歌でシン・ウルトラマン視聴の満足感を引き上げる歌です。

 

このM八七はウルトラシリーズに出てくるM78星雲が元ネタですが、実はこのM78は誤植で本来はM87であり、この名残でゾフィーの必殺技はM87光線と命名されているという逸話があります。

 

画像はM八七のCDに特典としてつくステッカーで、M八七のロゴはMATと読めるデザインになっているのですが、これは『帰って来たウルトラマン』に登場する怪獣攻撃隊MATを意識したのでしょう。

 

映画の公開に合わせて米津玄師さんのコメントも公開中です。

 

またシン・ウルトラマンは無関係ですが、米津玄師さんはウルトラマンを意識した絵を描いたことがありました。

 

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