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『機動戦艦ナデシコ もうひとつのナデシコ』を振り返る

1996年から2000年にかけて角川mini文庫というレーベルがありました。

miniの名が表すように小型の文庫本で価格も200円とコンパクトなシリーズで、書き下ろしの小説やエッセイ、ガイド本からラノベの外伝と様々な本を刊行しました。

その中に機動戦艦ナデシコ もうひとつのナデシコというタイトルもあり、アニメとも角川スニーカー文庫から出たノベライズとも違う、独特の内容だった本作について取り上げます。

大まかな設定はアニメと変わらないもののアキトの描写にかなり違いがあり、それが不思議な魅力となっていたのでアキトの独白や台詞を引用を多めにした内容となっています。

目次

早く来い。侵略者。

6話とプロローグの計7つのエピソードで構成された本作は、アニメでも主人公であるアキトの一人称視点で進みますが、アキトの設定からしてかなり違います。

アニメのナデシコでアキトはゲキ・ガンガーというアニメが好きな青年でしたが、本作のアキトはアニメはアニメでもガンダムのようなアニメが好きな青年でした。

今回の勝利で、この戦争の流れは一気に変わるだろう。オレはヒーローだ。ついでに言うなら。夕焼けが美しい。

と、いうようなアニメーションが好きだった。

このようにはっきりとはタイトルは出していないものの、ゲキ・ガンガーが好きだったアニメ版とは好きなジャンルが違います。

それだけではなく、『学校にテロリストが現れたら~』系の妄想までしていました。

突然、見たこともない敵が攻めてきて、学校や、家や、街がメチャクチャになる。退屈な毎日を吹っ飛ばす。

ところが、なぜかオレは生き残る。同じように、オレ好みのかわいい女の子も生き残る。いや、同じクラスの、あの子でもいい。

妄想の続きは『軍が極秘裏に開発したロボットに飛び乗る』というもの。

ロボットがなければ『突然「超能力に目覚める』、『宇宙人の魂が自分の中に宿る』、『軍用パワードスーツを手に入れる』、『それ以外のかっこいいアイディア』と、妄想をしつつもパッとしない日常を暮らすというのが本作のアキトです。

見出しの『早く来い。侵略者。』はアキトの独白ですが、その続きにはこうありました。

今なら、まだ間に合う。

自分の”隠された才能”が実はないんだってことに気づく前に。

また両親の設定にも違いがあります。

本作でアキトの父は観光船でガイドをしていましたが、小指の先ほどの小隕石(今でいうデブリですね)が船にぶつかって死去、母は父の死後に病死(劇中では流感と表記)。

両親の死後も自分がさる名家の隠し子であり、そのことを伝えに老紳士が来ることを妄想したりもしていました。

そんなアキトは物語の開始時、食堂で働く父の古い友人の世話になりコックになっています。

アニメではコックであることにこだわりを持つキャラクターでしたが、本作のアキトは調理師免許を持っておらず皿や鍋を洗う下働きという立場。

その父の友人に失言をしてしまっても、そのことについて謝罪やフォローができず後悔するだけです。

自分が特別な存在ではなく、都合よく自分だけを生かす侵略者も、極秘裏に作られたロボットも存在しないことに薄々気づきつつも、自分がアニメの主人公のようになれるチャンスがあったら逃すつもりはないと考えているのが本作のアキトです。

アニメと違う設定

このようにアキト周りだけでもアニメと設定が違うのですが、他にも違いはあります。

エステバリスエスヴァリスという名前で、ディストーションフィールドや相転移エンジンという単語も出てきません。代わりに空間装甲や空間制御という単語が出てきます。

リョーコたちも存在している描写はありますが、名前が出るのはリョーコとヒカルのみでイズミについては名前が出ず、エスヴァリスのギャルズチームとして一括りでした。

バッタという名称も出てきますが、木星蜥蜴という単語は出てきません。

また地球人は火星人に対して差別意識があるという設定があり、これのおかげでアキトが苦労したことを独白する場面もあります。

自分の想像するオレ

侵略者が現れる妄想をしていたアキトの前に本物の侵略者が現れますが、アキトはというと何もできず、難民船に乗って地球に避難することしかできませんでした。

その後は転々としつつも、軍の食堂で働くことにしたアキトでしたが、そこにバッタの襲撃があり、ついに主人公になれるチャンスがきたと無断でエスヴァリスに乗り込みます。

アキトは活躍したもののそれはシステムのおかげに過ぎず、『自分をパイロットとして認めろ』と心の中では思うものの、現実でそんな強気なことは言えません。

そんなときナデシコの艦長であるユリカが現れ、アキトに再開できたことを喜びつつも艦長権限でアキトを現地採用

こうしてアキトはパイロットになることができたのでしたが、やがて自分のあり方について悩むことになります。

アニメには1話から登場し、3話であっさり死んだガイというキャラクターがいました。

本作にも登場して、無断でエスヴァリスに乗ったアキトとも意気投合しますが、こちらでは死亡する場面の描写すらなく、地の文で下のようにあっさりと触れられるだけで、すでに死んでいることが前提で話が進みます。

そう、ダイゴウジ・ガイは死んだ。アキトとの友情をあたためる間もなく。

ガイの死後、アキトはとりつかれたように戦い続け、ついには倒れます。目を覚ましたアキトはメグミに自分の心情を吐きます。

ロボットには乗れた。オレには才能があると思ってた。でも、そこまでさ。この世には奇跡の力なんてありゃしないし、ピンチの時にひらめく名案だってない。実はガイが生きていて、新型ロボットで助けにも来てくれない。

泣きながら話すアキトをメグミは優しく抱きしめます。アニメでもフラグが立っていた2人ですが、本作でもそれは変わりません。

本作は全部で130ページもない短いストーリーです。ユリカがアキトを王子様と呼ぶ理由も明らかにならず、三角関係の決着もつかないまま終わります。

ユリカとメグミの三角関係がこれからも騒ぎになることを匂わせつつ、バッタの背景にいるものの正体や、終盤現れる『通常の敵機動兵器の30倍のスピードで動く人型の白いやつ』の正体も分からないままなので、打ち切り感のある終わり方ですが読後感は爽やかでした。

本作は侵略者と戦う主人公のようになりたいと思いつつも、現実ではできなかったアキトが、憧れた存在のようにできない自分を受け入れるまでの過程が主軸のため、他の設定描写の薄さが気にならない構成となっています。

当時より今の方が刺さりそうなアキトの設定も含め、アニメとは違う魅力のある一冊でした。

余談ですがリョーコたちやルリ、ミナトやジュンも名前のあるモブ程度の出番しかないものの、ウリバタケにはアニメでは考えられないくらいカッコイイ見せ場があります。

著:山口 宏
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