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『判決はCMのあとで ストロベリー・マーキュリー殺人事件』を振り返る

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裁判がテレビで中継されることが当たり前になり、裁判は娯楽として受け入れられ裁判員経験者で作られた裁判アイドル『CSB法廷8(シーエスビーホウテイエイト)』が、裁判の進行に携わりつつアイドルとしても人気である社会。

という個性的な舞台設定が特徴の本作ですが、このような特殊な設定でありながらも主人公の悠太が裁判制度に否定的であり、序盤は悠太が現在の制度に疑問を挟む形かたちで話が進んでいくことで違和感なくこの世界に入り込むことができます。

裁判の中継にはスポンサーが付くなど一見華やかに見えますが、様々な描写を通してこの世界なりの歪みが現れる構成になっていました。

  • 裁判の進行は中継優先で、CMが入ると中断される
  • 裁判員は裁判の間、芸能人のように扱われスポンサーのCMにも参加しなければならない
  • 裁判官も裁判員も仮想した姿で裁判に臨むことがある
  • 服装をスポンサーに指定されることもある
  • 検事や弁護士が格闘技の選手のように紹介される
  • 法廷も劇場やセットのように扱われる
  • 被害者の親族も法廷で発言できる

このように裁判そのものよりも、『裁判をいかに娯楽として盛り上げるか』が重視される社会を描く本作ですが、その最も大きな影響として刑罰の厳罰化が挙げられます。

SNSで炎上した人物が、今まで興味も持たなかった部外者から叩かれ非難されるというのは現実でも度々起きますが、それと同じことが法廷で起きるのが本作の社会。

裁判が娯楽になったことで、厳罰を望む市民の感情に後押しされるかたちで判決が出ることが珍しくなくなっています。

序盤、悠太の彼女がある事件で死刑判決が出たことを喜ぶ場面があるのですが、その描写は炎上した人物に社会的な制裁を望む現実を連想させる嫌な生々しさがありました。

被告人に死刑のような重い判決が出ると傍聴席から歓声が沸く環境で、裁判員は判決に対して市民として意見しなければなりません。

悠太が死刑判決がでることを『全国から死ぬことを望まれているようなもの』と例える場面もあります。

しかも社会が望む判決を出さなかった場合、名前は伏せているものの中継は顔出しで身元がバレるため、裁判員たちは裁判の結果次第で、自分たちが炎上し非難の対象になるリスクを抱えるはめに。

そんな設定が徐々に出てくるうえ、一般人である悠太も芸能人のように周囲から見られ、マスコミのターゲットにもなるため、読んでいるうちに裁判に否定的な悠太に同情的な視線をで読むようになります。

そんな本作裁判員や裁判官がCSB法廷8を含めて、様々な考えはあるものの真面目に裁判に取り組むのに対し、中継側の人間はプロデューサーからADに至るまで、裁判を娯楽にしか捉えず、裁判員を言いなりにできる出演者程度にしか思っていません。

そのため悠太たち裁判員が証拠や証言を元に裁判官とやり取りした結果、有罪に決まりかけた判決を無罪にしようとすると番組の構成に反するを否定したうえで馬鹿にし、もしそうなったら裁判員たちが非難の対象になると脅しをかけます。

『そんな状況で有罪になりそうな現状を裁判員としてどうするか』が本作の盛り上がりどころといえますが、話としては全体的に中途半端な終わり方をします。

中継スタッフは序盤から憎まれ役として登場し、終盤まで言いたい放題ですが悠太たちや裁判官が反撃してスッキリする展開にはなりません。

悠太は裁判が始まるとマスコミに注目されてしましい、付き合っている彼女とろくに話すこともできなくなり、疎遠になったタイミングでCSB法廷8の1人であるまほっちとの距離が縮まるのですが、この恋愛面のエピソードもスッキリしない終わり方をします。

それでは風刺としてはというと非難していい人物を裁判を通して叩き、厳罰が下されると歓声が上がる描写に、SNSで炎上した人物を集団で叩く現実への皮肉や風刺の要素が確かにあるのですが、こちらも深く掘り下げられません。

本作は『謎と恋の法廷青春ミステリ』と紹介されますが、事件の謎も含めてどれももやっとする結末なので、現実とはまったく違う特殊な裁判員制度に振り回される一般人の話として読むのがおすすめです。